2003年7月26日
27.5Kで1T
芝浦工業大学
ソウル大学
芝浦工業大学材料工学科の村上雅人教授と、ソウル大学の劉相任(Sang Im Yoo)準教授らの国際共同研究グループは、MgB2(2ホウ化マグネシウム)のバルク超伝導体を用いて、図1に示したように27.5Kで1T(テスラ)(1Tは1万ガウス)の磁場を捕捉させることに成功し、その成果を7月29から7月31日の日程で東京の日本大学文理学部の百周年記念館で開催される第11回超伝導体の臨界電流関するワークショップ(IWCC11, The 11th Workshop on Critical Currents in Superconductors)で発表する1。
MgB2は日本の青山学院大学の秋光純教授のグループが金属系超伝導材料としては世界最高の39Kの臨界温度を示すことを発見して、世界的に注目されている材料である。世界各所で線材開発が進められており、日本では液体ヘリウム温度(4.2K)において0.5Tという磁場を発生するコイル磁石の開発が物質材料研究開発機構と日立の共同グループや、東京ワイヤと超電導工学研究所のグループなどによって進められている。磁石特性に関しては1テスラという値がひとつの目標となっているが、いままで、この値は達成されていない。
今回の成果は27.5Kという4.2Kよりもはるかに高い温度で1テスラという値を達成したもので、MgB2がパワー応用に対して大きなポテンシャルを有することを示している。
現在、超伝導は医療、交通、環境、通信など幅広い分野で応用開発が行われており、今回の成果はMgB2が将来の産業応用に供することが可能であること。
今回、同研究グループは、スパークプラズマ焼結法という特殊な方法2を用いて、MgB2を1120〜1300℃という高温で合成することにより、理論密度の98%という超高密度のバルク体を作製することに成功した(図2, 図3)。この緻密化により、27.5Kで10万A/cm2という高い臨界電流密度が達成され、その結果1Tを超える磁場を捕捉することが可能となった。
なお、より低温にすれば捕捉密度は向上するが、今回の試料は臨界電流密度が高すぎるために、それ以下の温度では磁束ジャンプという現象が起き、測定が不可能となった。今後は、金属含浸などによる安定化によって測定が可能になる。現在、同グループは、その処理方法を検討している。
1 The 11th Workshop on Critical Currents in Superconductors, July 28 ? July 31, 2003,Tokyo, Japan この国際ワークショップは2年ごとに日米欧で開催されており、今回は、日本大学文理学部の百周年記念館で開催される。大会委員長は、日本大学文理学部の滝沢武男教授と、芝浦工業大学工学部の村上雅人教授がつとめている。
2 スパークプラズマ焼結法では、試料を高温に加熱した状態で30MPaの高圧を加えて、さらに1200Aの電流を流しながら焼結する方法であり、緻密な焼結体を合成することが可能である。
本製法では、空孔があるとスパークが発生し、比較的短時間で高密度の材料を合成できるという利点がある。今回の焼結時間はたった15分であった。
この件に関する問い合わせ
〒108-8548 東京都港区芝浦3-9-14
芝浦工業大学工学部材料工学科
村上雅人
tel&fax 03-5476-2418
e-mail: masatomu@sic.shibaura-it.ac.jp
図1 今回開発したMgB2超伝導体(直径30mm、厚み6mm)の捕捉磁場の温度依存性。1190℃で処理した試料では、27.5Kで1Tの捕捉磁場を記録した。
これ以下の温度では臨界電流が高くなりすぎて、超伝導特有のクエンチという現象が生じ、磁場の測定できない。これは、本材料の高特性を反映している。
図3 今回開発したMgB2超伝導体の表面の走査型電子顕微鏡写真。一部に空孔などが見られるものの、非常に緻密であることが分かる。